はじめに｜“UXは誰かの役割”ではなく、“すべての人が持つ視点”に変わりつつある。

「最近のサービスって、なんだか“察してくれる”ようになってきた」と感じたことはありませんか？それは、AIとUX（ユーザー体験）という2つの領域が静かに交差し始めている証かもしれません。

本書『AI for UX Designers』は、UXデザイナー向けに書かれた指南書でありながら、プロダクトマネージャー、ビジネスデザイナー、事業企画に関わる人など“体験をつくる立場にあるすべての人”にとっても深い示唆を与えてくれる一冊でした。現在私は、戦略や組織横断の取り組み、チームディレクションを中心とした業務に携わっていますが、今でも調査設計・分析、ペルソナやジャーニー設計、ワイヤーフレーム作成といった実務にも関わっています。現場のデザイナーと共に“体験をつくる”プロセスに携わることは、今も大切な実践の場です。

昨年はUXIA協会の生成AI実践研究会で、生成AIをどうデザインプロセスに取り入れるかというテーマでリサーチにも参加しました。また個人的にもAI関連の学びを深め、プロンプト設計やAI活用の可能性・限界について探究中です。そんな中で出会った『AI for UX Designers』は、まさに私が“こういう構成でまとめたい”と考えていたAI×UXの実践知が凝縮された一冊でした。「AIに取って代わられるのではなく、AIを使う人に取って代わられる」という言葉は、今の時代を象徴していると感じています。

AIは非常に優れたアシスタントです。調査やアイデアの整理、パターン抽出など、人間では追いつけない速度と量で支えてくれます。でも、ユーザーの文脈を読み取り、共感し、体験全体を意味づけることは、人間にしかできません。問いを立て、相手の立場を想像し、矛盾を抱えたままデザインする力。その“人間らしさ”こそが、AI時代におけるデザインの本質であり、これからさらに重要になるのだと私は思います。本書は、実務と問いのあいだで揺れながらも前に進む私にとって、AIとともに働くこれからの時代を考えるための、確かな手がかりとなる一冊でした